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シネマ

2009-07-16 | 20:45

シ ネ マ
 


ワタシは、そっと目の前の現実から目をそらした。
窓の外には雨が降っている。滝のように流れ落ちる雨がワタシ達をこの家に閉じ込めている。
いえ、ワタシ達を閉じ込めているのは、雨なんかじゃない。
…もっとタチが悪いものだ。

意識を目の前の現実に戻す。
すぐに目に入るのは、揺れる長い髪、亜麻色の綺麗な髪。

30代半ばというのが信じられないくらいに綺麗な肌。

空の色?
海の色?
とにかく、自然の蒼を凝縮して人の身に遷したような綺麗な瞳。
とても澄んで、普通の人間が誰でも持つような翳りを映していない瞳。

狂人の瞳。

この人は、ワタシ達のママ。
ワタシ達をこの家に閉じ込めているタチの悪いものだ。

「こら、ユウジロウ。
そんな演技じゃ、いくらシンジでも騙されちゃくれないわよ。」

「だ、だって…」

「いいわけはいらないわ。
さあ、シーン…ええと…マチコ?」

「シーン415。」

「さっきは300番台だった気がするけど…
まあ、いいか。
シーン425、スタート」

何番だろうと意味はない。この人には認識できていないんだから…
ワタシ達が双子だったのか三つ子だったのか、
パパが今、どこで誰と過ごしているのかも判らなくなってもう何年になるんだろう?

もうそろそろかな?
雨はあの人を連れてくる。
やしなう子供が安らかに眠れるから、あの人もここにこれる。

雨の音はある人には優しく聞こえるらしい…例えば、実の母親に殺されかけた少女には…
雨の音が聞こえるうちは、母親の自分を呼ぶ声が消されるらしい。
幻の声だけど、あの娘にとっての母親の思い出はそれしかないから。
自分を別の名前で呼ぶ母親と自分の首を絞める冷たい手の感触…
母親は『レイ』って呼ぶそうだ。

ワタシ達が双子になって、パパがいなくなったのは、あの娘が死にかけてしばらくしてからだった。

ママは、ワタシ達の姉のことは忘れてしまった。
口に出すのはパパのことだけ。
パパを連れて逃げ出した『レイ』からパパを取り戻すことだけ。

「このへたくそ。
そこは涙を浮かべてすがるの。
『パパ、僕は妹が欲しいんだ』
はい、はじめ。」

なんか、下心が丸見えね。
いつものことだけど。

目を窓の外に向ける。
大丈夫、きっと、この雨は明日の朝まで止まない。

雨の向こうには湖が広がっている。
パパとママに昔、話してもらったことがある。
あの湖のほとりでパパとママは結婚したそうだ。

花嫁はズタボロのプラグスーツ。
花婿はよれよれの学生服。
参列者は誰もいない。

それでも幸せだったそうだ。
自分達がこの世で最期の人間であっても…
独りではなかったんだから。

これだけの雨が降れば、明日には魚がいっぱいとれそうだ。
そういえば、パパとママは、生きて泳いでいる魚を見たことがなかったらしい。
川や湖は汚染されて、飲料水にもそのままでは使えなかったらしいから…

人が絶滅寸前の今になって、自然は本来の姿を取り戻したってことか…
それほど人が嫌いだったのかな、この星は。

「駄目駄目、ほんとに要領の悪いとこはシンジ似ね。」

ワタシは誰に似てるのかな。
髪は黒で腰まで伸ばしている。瞳の色も黒。
顔は、どちらかといえば母親似なのかもしれない。
目元がシンジにそっくりだとママは言うけど…

ユウジロウはパパそっくり。
ただ、鼻筋がとおっているのが自分似だとママは言う。

パパとママのどちらにも似ている。当たり前だ。
ワタシ達はパパとママの子供なのだから。

でも、姉は…ヒバリは、どちらにも似ていなかった。
透き通るほど白い肌に赤い瞳。
初めてヒバリを見た時、ママは悲鳴を上げたそうだ。

それからママは、ゆっくりと狂っていった。
時々、ヒバリを見つめて『レイ』と呟いて…
手がのびる…


コンコン
コン、コン、コン

ドアをノックする音。
最初の2回は軽く連続させて。
最後の3回はゆっくりと強く。
あの人だ。

ワタシはママの顔を見る。
ちょっと慌ててるけど…演技指導の最中に敵がくれば当然か…
道具を片付け、ユウジロウを蹴飛ばして部屋に追い立てる。
どうやら、連れ去られるのを警戒してのことらしい。
それらが済んで、ようやく落ち着いたママがワタシに向かって合図する。
開けていいらしい。今日は比較的機嫌がいいみたいだ。
門前払いの日もけして少なくはないんだから。

玄関のドアをそっと開ける。
もとより鍵はかかっていない。
ワタシ達とあの人達以外に人間はいないんだもの、鍵をかける必要なんかない。

「いらっしゃい」

コクン

会釈をかえしてあの人がゆっくりと入ってくる。
水色の髪が水滴を落としている。わずらわしげに頭をちょっと振る。
しぐさがとても子供っぽい。
180cm以上の身長の人に対するには、喩が適切ではないかもしれないが、小犬みたいだ。
ママもおもしろそうに見ている。

「レイ、特別にシャワーを使ってもいいわよ」

「いい」
そっけないけど暖かな声。

一瞬、ムッとしかけたママが怒鳴る寸前で持ちこたえた。
珍しい。本当に今日は機嫌がいいらしい。

「そう。まあ、いいわ。
なんか飲む?」

コクン

頷いて、それから首を傾げる。

ママは動こうとしない。

軽く苦笑に近い笑顔を浮かべると、あの人が台所に向かう。
どうやらセルフサービスということらしい。

ワタシも後に続いた。

「いつから?」

「昨日の夜」

あの人は、紅茶の用意をしてからエプロンを身に着ける。

ワタシ達は、ママの演技指導を昨日の夜から受けている。
その間不眠不休。食事もとっていない。
正直いって暖かな食事はたいへんにありがたい。
あの人…もうよそう、『レイ』の料理は子供のころから大好きだし。

「…」

『レイ』がワタシを見てる。
ユウジロウの事が聞きたいらしい。

「今、部屋にいるよ。ママが嫌がるから。」

コクン

頷いて料理に集中する。
『レイ』は、ほとんど話さない。
話すことはできるけど、話せない。
ママに知られてしまえば…
…だから話せない。

「ヒバリは?」

『レイ』はゆっくりと頷くとワタシの頭を撫ぜる。
優しいいい子に対するご褒美という所かな。
ワタシの本当の気持ちを知ったら『レイ』はどうするだろう?
少なくとも二度と頭を撫でてはくれないだろう。
ワタシはヒバリに嫉妬している。
『レイ』を一人占めしているあの娘に…
かわいそうなワタシの姉に…

知られたくない自分…
見せたい自分…
無意識に演技していることを感じる。
ワタシ達はみんなお芝居をしているみたい。

でも…
幕がおろされる日はくるんだろうか。

ほどなくして『レイ』のつくった料理がテーブルに並ぶ。
空腹に耐え切れずに出てきたユウジロウを加えて、ワタシ達の食事が始まる。

やっぱり、『レイ』の料理はおいしい。
ママもすごい勢いで食べてる。

でも、時々手を止めて『レイ』を見ている。
本当にわかりやすいんだから。

「『レイ』、パパはどうしてるの?」

「元気」

それだけでママの顔がやわらかくなった。
ワタシの一番好きなママの表情だ。

食事も終わり、お腹がふくらむと今度は眠気が…
ママはもう眠っちゃってる。

『レイ』がママのその様子を見て立ち上がる。
ママを軽々と抱き上げると寝室に向かう。

ワタシとユウジロウも後に続く

ママが寝言をいいながら『レイ』の首にすがりついてる。

『レイ』はママの腕を優しくほどくとベットに横たえる。

「アスカ、僕はここにいるよ。
君を愛してる。」

ママに優しくくちづけた後、ワタシ達の方に向かって微笑む。
水色の鬘をとって、カラーコンタクトをはずす。
あらわれたのは黒髪に黒い瞳

「「おかえりなさい、パパ(とうさん)。」」

「ただいま」

カチン
「シーン1、カット。
…っていつになるのかな。」
カチンコを持ったユウジロウ。

「アスカがいつ元に戻れるのか。
ヒバリの心の傷がいつ癒されるのか。
わからないけど、僕は信じているよ。
幸せになるために僕らは生まれたんだってね。」

ワタシの大好きなパパの顔。
ママとワタシ達のことを話しているパパの顔が一番好き。

大好きな人の大好きな顔を見ていたいから。
だから、生きていけるのかな。

「さーて、一眠りしたらまた芝居の続きだね。」


それでも…
きっと、ワタシ達は大丈夫。
生きてさえいれば、幸せになれるチャンスはあるんだから。
だから、大丈夫。

明日の朝からまたはじめよう。


 「「「シーン1、スタート」」」





                      お終い
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Theme : 二次創作:小説
Genre : 小説・文学

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