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手乗り龍のしつけ方 第十話百鬼夜行

2010-01-15 | 21:08

ここに掲載する物語は完全なるフィクションであり、実在するいかなる個人、団体とも関係ありません。

 

手乗り龍のしつけ方

第十話 百鬼夜行

 

 

 

 

 

 

 

私は他人の視線に敏感だった。

私がその人にどう思われているのか、どのようにすればその人は私を好きになってくれるのか、そんなことばかり考えていたから。

私には、二人の兄様と母様がいる。父様はいない。

正確にはどこかにいると思うけれど、会ったことはない。

ならばいないのと同じことだろう。そういうことだ。

母様はどこかにいる父様から、生活費をもらっていたようだ。

生活の苦労というものはしなかった。ただ、周囲の目は心地のいいものではなかった。

その人達の話では、私や兄様方は愛人の子とか言うものだそうだ。

実際は、兄様方の父様と私の父様は別の方で、兄様方の父様と母様は離婚をしていないから、ただの愛人というよりもっと悪い。

つまりは、私は不義の子ということになる。

不義にしても何にしても、母様や私が父様に愛されているのならばまだ救いはある。

でも、そうではないらしい。

父様は私達自身に興味はなかった。

では、何に興味があったのか・・・

 

母様には、なにか特別な能力があるようで、時たま中空を見つめてぶつぶつ言っている時がある。

そんな時の言葉を書き留めるのが私の役目。

とりとめもない言葉の羅列、私はそれを少しでも意味が通るように言祝ぎとして白い紙を埋める。

その紙を定期的に我が家を訪れる父様の使いの方が持ち去る。

父様からの送金は私達の生活費というよりは、この言祝ぎへの報酬という面が強いようだ。

何の法則性もないように思える言葉、それが後から見ると、あの言葉は、このことを示していたのかと思い当たることがある。

巫女というのか、とにかくなにかの存在と繋がり、未来を示唆する言葉を得るのが、母様の能力だった。

ある日のこと、トランス状態の母様から何度も、一面の赤、虚ろな視線、偽りの記憶、異なる世界という言葉がでてきた。

何度も何度も、私の手を握りながら伝えようとしている。

今までこんなことはなかった。なにか私達に関係ある言葉なのだろうか。

結論としては、関係があった。

父様が遣わした方が私と母様の存在をこの世から消し去ったのだ。

邪魔になったのかどうなのか、動機はわからないが。

 

一面の赤の中に私を少しでもかばおうとした母様がちらばる。

瀕死の私は、兄様方の視線を感じていた。

 

助けて欲しい・・・助けてくれる、きっと兄様方なら私を・・・

 

早く助けて・・・なにしているの・・・

 

早く・・・助けろ・・・・・・

 

・・・・・・もう終わらせて・・・

痛い、イタイ・・・熱い・・・寒い・・・・・・

 

命がキエル・・・なのに感じる・・・視線、シセン、二つの視線・・・

物陰にじっと隠れている兄様方の視線が変わっている。

 

おー兄様の視線は虚ろになった。私を映していない。

 

ちー兄様の視線はウツロになった。私を映しているのに自分をウツしていない。

 

結果、私は死んだ。

 

おー兄様は、ちー兄様の存在と私の死という現実を消してしまった。

ちー兄様を私と思いこむことで、私の死と妹を助けられなかった罪悪感から逃れてしまった。

 

ちー兄様は、自分が母様と私の殺害現場にいたという事実を消してしまった。

私が自分に助けを求めていた事実を消してしまうことで、妹を助けなかった罪悪感から逃れてしまった。

 

とはいえ、どちらにしても兄様方に私を助けることは無理だったろう。

人を殺すことを楽しめる人間に立ち向かうには、二人とも役者不足だった。

きっと、一面の赤の中に母子全員が散らばるだけだったろう。

でも、助けてもらいたかったのは事実。恨んではいないが、憎んではいないが、悲しかった。

自分が生き残ることを選択するのは、正しいこと。

自分の遺伝子を残すために生きるのが、生命としての正しさだから。

でも、悲しい。ただ、悲しい。

その消えない悲しさが今の私を遺したのかもしれない。

 

でも、そのころの私は、ちー兄様にとり憑く幽霊、ちー兄様が眠りにつく時に浮かぶ人格、ちー兄様が自分の覆い隠された

罪悪感を消化してしまえば消えてしまうだろう存在、そんなものだった。

そんな不確かな存在だった私が、この世界に渡り、覚醒の儀を行ってからは、もう少し確かな存在となっている。

覚醒の儀によってリトは私そっくりの肉体を得た。ちー兄様の龍体は本来のリトのものだろう。

そのあおりか余慶かわからないが、私の存在の力が確かに強くなっている。

幽霊から八百万の神の一柱になれるぐらいのランクアップだ。

でも、それだけの話でしかない。肉体が無いということは、遺伝子を残せないということ。生命の正しさに則って存在することができないということ。

逆に言えば、遺伝子の頚城から逃れていることから、生命としてなし得ないこともなせるのかもしれない。

では、それはいったいなんだろう?

この世界にも元々の私やちー兄様の世界にも、人を壊すものが溢れていた。

災害、事故、事件、病気・・・

そんなものをいちいち潰すことは、いくら正義の味方でも行えないだろう。

ましてや、妹さえ救えない兄と父親になすすべもなく殺されてしまった妹では。

 

「善とは、悪とは何でしょう」

独り言のつもりだったが答えがあった。

いつのまにか雨の名を持つ龍神官が傍らに控えていたようだ。

 

「全き善」

「徐は天上の調べ」

「全き悪」

「徐は煉獄の苦鳴」

 

「フフフ

ハハハハ

そう、善悪はお伽噺の存在ですか。

では、この世には何があるのです?」

 

「偽善」

「偽悪」

「人は己の想う善を行い、己の畏れる悪を執る。

己が計った善悪を己の力で現出させるのみ」

 

「では、人ならぬ私は、この世に悪を播きましょう。

ちー兄様が善をなせるように」

 

全き善、全き悪。それらがこの世に顕現すれば、何がおこるのでしょう。

地上に天上の調べと煉獄の苦鳴が満ちる時、人の幸福や不幸になにほどの意味があるのでしょう。

生に、死に、過去に、未来に、人の営みに価値があるのでしょうか。

私は、この世に在り続けてもよいのでしょうか。

愛しています、とても。

ちー兄様を、自分を、青い空を、青い海を、子供達の笑顔を、恋人達の甘い囁きを、全てを。

そう全てを赤く染めてみせましょう。

一面の赤が私の歩む道を彩るのです。

 

「神龍神殿総主教として導きます、百鬼夜行を仙台伯領に」

 

「是」

「諾」

「蔵王要塞から調整済みの信徒を放ちます」

 

 

○○○○○○○○○○○○

要塞都市札幌

 

 

アウラが札幌方伯の執務室で報告を行っている。

あいかわらず方伯は、右手にさげた水筒を時々呷りながらアウラの報告を聞いている。

 

「両陛下は界渡りをしているものと思われます。

皇女のツガイ殿との等価変換です。

ご存知のように、界をわたる際には、同量の存在の重さをもつ人と入れ替わる必要があります。

当時のツガイ殿は両陛下と同じ存在の重さだったということになります。

今はどうかわかりません。

存在の重さが当時より重くなれば、両陛下だけではたりず、誰か他のものをつれてくることになるかもしれません。

時間がたつほど可能性はぶれますが・・・」

 

「もう手遅れだな。ツガイ殿は教王にもなり、しかも最強の龍でもある」

 

「元の世界に追い返すことはできませんね」

 

「ああ、ツガイ殿を追い返してもまた別の誰かが来てしまうのではな。

やはり、ツガイ殿とは、この世界で雌雄を決するしかあるまい」

 

「はい。

でも・・・」

 

「いざとなれば、叔母上を頼るほかあるまい」

 

 

「東京伯は、忠臣です。他の方々のような利では動きません」

 

「忠義に篤い者は情で動く。だが、叔母上は利でも情でも動かないだろうな」

 

「では」

 

「急くな。

情でも利でも、ましてや名誉でも叔母上は動かない。

叔母上はそんなものには興味がないからな。」

 

「・・・」

 

「叔母上はな、退屈なのだ」

 

「は?」

 

「叔父上が亡くなられてから、より酷くなってしまったようだがな。

退屈で退屈でしょうがない人間に一番喜ばれるのは何だと思う」

 

「・・・」

 

「娯楽だよ。しかも叔母上が喜ぶのは、壮大な規模の、そう、この世界の数カ国を巻き込むぐらいのな」

 

「まさか」

視線が執務室奥の場違いな水槽に向く。

 

「そうだ。

教祖の欠片が壮大な娯楽への鍵となる」

 

「たくさんの人が不幸になります」

 

「だからなんだ。

我らは貴族だ。存在を続けなければならない。

だからこそ私は死んだのだろう。

亡くなった兄上を生きていたことにするために」

 

「フラン様・・・」

 

「アウラ、私はこんな世界でも、兄上の考えていた世界よりは遥かににましだと思っている。

人間が生産される世界。計画的に社会のパーツとして組み込むために産まれ、経年劣化すれば廃棄交換される人。

社会は安定的な成長を保証されるが、個々人の個性は抹殺される。

それはそうだ、一定の性能を発揮できなければ機械部品としては不良品だからな」

 

「フラン様、亡き方はそこまでのお考えは・・・」

 

「兄様は個人の識別ができる方ではなかった。

なまじ、他の面で優秀だったから家督をつがれたが、兄様には、個性とか個人の幸福の追求など理解できていなかった」

 

「・・・やめてください、フラン様」

 

「兄様にとって、領民は数字だ。生産力と軍事力を示すな。

アウラやウォルフも私もその他大勢と判別できてはいなかった」

 

「やめて」

 

「すまんな、アウラ」

 

「愛されていると思っていた時もありました。

大切にされていると感じていました」

 

「アウラ、もういい」

 

「私を認識できていない・・・そんなこと信じられませんでした」

 

「もういい。私は貴族の家に産まれ、そして家を保たねばならない。

その上で、今よりもましな何かができれば、そう、私が酔えるような何かが」

 

「フラン様」

 

「ツガイ殿には期待しているのだがな」

まだ中身の入った水筒を執務机に放り、水槽をちらりと見やりながら方伯が呟く。

 

 

○○○○○○○○○○○○

蔵王要塞近傍

 

 

歩兵を主体とした部隊、仙台伯が自ら率いている精鋭といえば聞こえはいいが、実態は疲れ切っている。

山岳地帯に突然出現した簡易要塞に突撃をかけ、破壊する。

翌日に偵察に出るとまた再建された要塞を発見。

再攻撃を準備して出撃、破壊する。

また偵察で要塞を発見し・・・

まるでエンドレス。

 

いっそのこと近くに駐屯地を設けたらどうかという話もでたが、それは認められなかった。

一般の兵士に知られては困る機密がこの近くにあるそうだ。

 

機密といいながら、機密情報管理がまるでなっていない仙台伯爵家のこと、兵士どころか

近くの住民にまでおかしな研究を行っている不吉な建物の存在は知られていた。

 

「ハートフル軍曹、ここにいらっしゃいましたか」

サイズがみるからにあっていないだぶだぶの軍服を着た幼女が現れる。

袖は盛大に余り、指先がまるで出てない。

不機嫌さを隠そうともしないで司令部テントに入ってくる幼女。

 

地図を前にして攻略方法を再確認していた数人の男達が一斉にテントの入り口の方を見やる。

その中の傷だらけの顔をした厳つい男が徐に口を開く

「軍曹?」

 

「伯爵位にあるにもかかわらず、小戦にあけくれている方はそう呼んで差し支えないでしょう」

 

「そうは言うがな、ゆき。

今回の相手は一味違うぞ」

 

「多少豪華な要塞になっても所詮は無人の張り子の虎でしょう。

部下におまかせなさい」

 

「あんな美しい要塞は見たことがないしな。立札が立っていたが岐阜城とか書いてあったぞ」

 

「無人ではないのですか?」

 

「少なくとも立札を立てていった者はいるだろうな」

 

溜息をついてゆきがテントを出ていく。

その後にこの仙台伯領を治める主であるハートフル・ミィ・セムタイが続く。

 

暫く歩くとさきほど話にでてきた立札が見える。

道三・信長ゆかりの岐阜城と書かれている。

 

「道三・信長というのが要塞の主ということですか?

聞いたことがありませんね」

小首をかしげるゆき。

 

「それより見ろ、ゆき」

 

木立の中から垣間見える建造物。確かに美しい。

石が整然と積まれた上に三階建てぐらいの建造物がある。

屋根も見たことがない様式だ。

 

「どうだ、あれこそ仙台伯爵家の居城として相応しいだろう」

 

「つまりは破壊ではなく、占領したいというわけですか?」

 

「もちろんだ」

 

岐阜城とかいう要塞の最上階を見やると展望ができるような場所がある。

確かに高い所が好きな男ならあそこから領地を睥睨してみたくなるだろう。

 

「偵察は?」

 

「まだ帰ってきてない・・・あれがそうかな」

仙台伯が指さす方、叢をかき分けて数人の男がまろび出てくる。

全員がひどく慌てている。

 

「報告せよ」

ゆきが手を振り上げて、凛とした声を発する。

 

「ゆき様、早くお逃げください」

偵察隊の中で一番体の大きい男がゆきを小脇に抱えて走り去っていく。

男達が彼方に消えた後に残されたのは、仙台伯のみ。

 

「こういう場合は、ゆきの人徳を褒めるべきか、己の仁徳の不足を悔悟すべきか」

頬の大きな傷跡を指でなぞりながら呟く仙台伯。

叢から妙な気配がすることは感じていたが、もはや逃げるべき時期は逸してしまっている。

背中を見せたとたんに襲われることになるだろう。

覚悟と共に腰の剣に・・・テントに置いてきてしまったか。

徒手で戦える相手ならいいが・・・

叢の存在が近づく・・・

いよいよ現れるという所で、綺麗な歌うような声が聞こえた。

そのとたん、叢の気配が引いて遠ざかってゆく。

 

助かったか、とは思いつつ、まだ緊張を解かずに気配がしていた叢に分け入る。

気配の主がいたと思われる場所の草は枯れ、土が変色している。

そんな部分がケモノ道のように続いている。

左を見やるとケモノ道は研究所の方向へ伸び、反対方向を見やると、岐阜城に続いている。

 

「どこから来てどこへゆくのか。

まさかとは思うが、逃げ出した検体がまだ生き延びていたということか」

 

ゆきにいくら言われても治らない癖、頬の傷跡をなぞりながら考えこむ仙台伯。

ふと上空を見上げると飛竜の群れが目に入る。

 

偵察用にしては多すぎる数だ。

見たことのない城、草と地を侵す存在、目的不明な数十頭の飛竜。

何かが起こり始めた。そう思える。

 

「戻って方伯に連絡をとるか。

その前に横浜公にも報告せねば」

 

偵察隊とゆきが消えた方へゆっくりときびすを返す。

 

 

 

 

 

つづく

九話へ        十一話へ
 

 

 

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